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よくわかる、使える会計知識 ~いまさら聞けない「連結決算」の基礎知識~

よくわかる、使える会計知識 ~いまさら聞けない「連結決算」の基礎知識~

 柴山政行(しばやま まさゆき)

いつから上場企業の決算は「連結が原則」になったのか? 

 たとえば、11月15日にウェブ上で掲載された日経電子版の記事では、次のような趣旨の興味深い話題がありました。
 日本企業が稼ぐ力を高めている
 2024年3月期の上場企業の純利益見通しは前期比13%増と9月時点の6%増から上振れした。…」
※出所: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1071A0Q3A111C2000000/

  ここで質問ですが、2024年3月期の上場企業の純利益とは
親会社個別決算の利益でしょうか、または親会社を含むグループ企業全体の利益でしょうか。

 今ではビジネスの常識になっているかもしれませんが、ここでいう純利益は連結ベースの数字なので、親会社を含むグループ全体の利益を指しますね。

 いまでこそ、新聞報道やニュースなどで見聞きする上場企業の業績は「連結ベース」で開示されるようになりましたが、ここでふと疑問が浮かんでこないでしょうか。
「そういえば、ニュースの報道はいつから連結ベースの業績に変わったんだろう。昔はやっぱり親会社個別ベースだけで、グループ全体の業績は開示されていなかったのかな?」

 そこで、まずは前提知識として、連結決算制度の発展と推移について少し見ていきたいと思います。
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  • 1973年…連結財書評の開示(添付資料扱い)
  • 1991年…有価証券報告書の本体への組み入れ
  • 2003年…連結キャッシュ・フロー計算書の開示
  • 2011年…連結包括利益の登場
  • 2016年…「少数株主持分」から「非支配株主持分」へ
    ※非支配株主持分…子会社の株主で親会社以外の者の持分

 連結財務諸表が導入されたのは昭和52年(1972年)4月以降に開始される事業年度からです。今から約40年前のことだったのですね。

 とはいえ、当時はまだ企業集団としてグループ経営を本格的に行っている会社は多くなく、日本企業では単体決算中心の会計制度となっていました。

 また、連結決算制度が導入された当初は日本独自の考え方が色濃く反映されていたのが特徴的です。その後、時代の移り変わりとともにグローバル化の波が押し寄せてくるにしたがって、日本の連結ルールも国際的な基準の考え方にだんだん近づいていきました。

 こういった時代の流れもあって、1972年の導入期には有価証券報告書本体の個別財務諸表に対し、添付書類としての位置づけに過ぎなかった連結財務諸表が1991年より本体に組み入れられるようになりました。連結財務諸表が、添付資料から開示書類本体の重要情報へと格上げされた瞬間といえるでしょう。

 その後、いわゆる「会計ビッグバン」と呼ばれる1990年代後半の会計制度の大改革を経て、2000年3月期からはいよいよ連結キャッシュ・フロー計算書の作成が上場企業において義務付けられるようになります。

 また、国際会計基準に日本の会計基準が大きく歩み寄ることになった一つの大きな現象として、「連結包括利益」というそれまで日本の会計制度になかった新しい利益概念が2011年3月期以降に登場し、以降も制度改正を経て今に至っています。

 こうしてみると、現在の連結財務諸表の姿になるまでに、いろいろと長い歴史をたどってきたのですね。

個別財務諸表の問題点と連結財務諸表の必要性

 さて、ここで質問です。
 なぜ、単独決算よりも連結決算の方が上場企業の開示において重視されるのでしょうか?

 この質問に答える前に、次のかんたんなA社とB社の開示例を比較してみてください。

設例1:A社とB社の個別財務諸表を比較して、どちらが儲かっているでしょうか。(万円単位)

202312Shibayama-2 それぞれの個別財務諸表を分析すると、A社の営業利益が120万円であるのに対し、B社の営業利益は500万円であるため、一見してB社の方が4倍以上儲かっているような印象を受けます。

 A社の営業利益120万円 < B社の営業利益500万円

 ここまでは瞬間的に分かりますね。

 では、次に以下の追加資料を入手できたとしたらどうでしょうか。

★追加情報

B社には、B社が100%出資している子会社X社があります。X社は商品をすべて親会社A社から仕入れて販売しています。

 

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 さて、これを見て皆さんはどのように感じるでしょうか。

★追加情報の背景

X社は2,500万円もB社から仕入れているが、これを原価と同じ売価で販売しているためまったく利益が出ていません。加えて、当期に仕入れた2,500万円のうち1,000万円しか販売できていないため、在庫が1,500万円も倉庫に残っています。

 子会社X社は100%の支配権を握られており、いってしまえば親会社B社の完全ないいなりとなってしまっていますね。
 そこで、親会社から子会社へのグループ間取引では外部への販売価格と同等の金額で商品が売り渡されているため、子会社から外部へ商品を売るときには「親会社からの仕入値段=外部への販売値段」となってしまい、この取引からいっさいの利益が出ません。

 したがって、X社は販売費及び一般管理費80万円のぶんだけ営業赤字に陥っています。

 このような子会社を使った押し込み販売で親会社単独の業績を良く見せることが可能になります。そのさい、子会社の業績は赤字になるなど、犠牲を強いられるのですね。

 次の取引の全体像をじっくりと見ていただくとおわかりいただけるのではないでしょうか。

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 B社が外部から仕入れた金額は2,000万円です。
 それらは500万売されています。
 ここでの利益率は 利益500÷売上2,500=0.2(20%)ですね。

 B社単独で見るならば、B社の業績は500万円の利益がこの段階ででることになります。しかし、グループ全体で見るならば、単にグループ内部でB社からX社に商品の保管場所が移動したにすぎません。外部にはまだ一円も売れていないですね。

 この後、実際に外部へと売れたのは(売価ベースで)1,000万円分であり、商品在庫は売価ベースで1,500万円ほどX社の倉庫内に眠っていることになります

 つまり、B社グループ(B社とX社からなる企業集団)全体として見るならば、次の2つのことが言えます。

  1. 外部から原価2,000万円分の商品を仕入れ、そのうち4割の原価800万円分が売価1,000万円で外部に販売できた。売上総利益(粗利)は200万円である。
  2. いっぽうで残り6割の原価1,200万円分の商品が倉庫に残っている。ただし、これはB社からX社への売価1,500万円としてX社の貸借対照表では在庫計上されている。

 

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 以上を踏まえると、B社の財務諸表と子会社Xの財務諸表を連結するにあたって、親子間のグループ間売上高2,500万円は次のとおり相殺することができます。
続けて、B社の売上原価2,000万円を子会社X社にある商品在庫1,200万円と売上高1,000万円に対応する売上原価800万円に分けてみましょう。

 

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 以上の計算結果をもとにB社の個別財務諸表とX社の個別財務諸表を合算すると、連結財務諸表になりますね。

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 これでB社の企業集団全体の取引実態を正しく反映した連結財務諸表が作成できました。

 結果として、A社の個別財務諸表もX社の連結財務諸表が経済的に同じ現象を意味していることがおわかりいただけたと思います。

 

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 なお、連結決算業務の流れを理解するために有効なツールとして、「連結精算表」があります。 親会社と子会社の個別財務諸表を単純合算したところから、連結上の必要な修正事項を加味して、ゴールとして連結財務諸表の数値を確定する一連の手順を一覧にした表です。 次に、これまでのB社とX社の連結プロセスを一覧した連結精算表を示しますので、ご参考になさってみてください。
 以上で、簡単な事例を通じて財務諸表の作成プロセスがイメージできましたら幸いです。
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 このように、子会社に対する支配力を行使して、親会社単独の決算数字を良く見せるための強引な取引をしようとする親会社へのけん制になると同時に、グループ企業の取引実態をより正確に表現することができることから、連結財務諸表による開示が原則とされるのですね。

実際の連結財務諸表を分析してみよう  

 それでは、実際の開示例を見てみましょう。

 コンビニ大手のセブン&アイホールディングス(HD)とローソンの有価証券より、関連情報を引用してみました。
 まずは、それぞれのグループ形態についてチェックします。
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 ローソンは、自身が三菱商事の子会社として位置づけられており、一方で直営店を経営するなどの事業を行いながら子会社等を管理しています。

 これに対し、セブン&アイHDは純粋持株会社と呼ばれる形態をとっています。
 純粋持株会社とは、自分では事業を行わずに、傘下にあるグループ各社の株式を所有するし、グループ会社の事業をコントロールすることを目的としている会社のことです。
自らは事業を行わないため、子会社からの配当などを売上高にしている、という特徴がありますね。

 こういった事業経営の形態の違いは、連結財務諸表にも数字として表れてきます。

 そこで、次の連結損益計算書に関連する売上高と純利益に注目してみてください。
 各社のデータとも、有価証券報告書の冒頭に掲載される「主要な経営指標等の推移」から引用させていただいています。

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 両社を比較してみると面白いことが分かりますね。
 ここで一つ、連結財務諸表を分析するときの方法として、「連単倍率」というものがあります。連単倍率とは、ある数値で連結ベースの数字が単体ベース数字の何倍かを示すものです。たとえば、連結売上高が150億円で、親会社の個別売上高が100億円の場合は、連単倍率が1.5倍になりますね。連単倍率を見る会計データとしては、売上高・利益・総資産などを用いることが多いと思います。

一般に、売上高などの連単倍率が高いグループ企業ほど、子会社や関連会社の売上または利益などの面での存在感が大きいことになります。反対に例えば連単倍率が1近くなど低い場合には、親会社の比重が高いといえますね。

 これとの比較でセブン&アイHDを見ると、とても面白いことが分かります。
 親会社の連結売上高は11兆8113億円あります。すごい規模ですね。
 これに対して、親会社単体の売上高は2484億円です。これでもすごい数字なのですが、連結ベースがすごすぎて、感覚がマヒしてしまいそうです(笑)。

 さて、セブン&アイHDの連単倍率を計算してみると、11兆8113億円÷2484億円≒47.54倍!

 ローソンが2.76だったのと比較すると、47.54はこれまたすごい数字ですね。

 つまり、グループ外部に対する販売は子会社等のグループ企業がすべて行い、純粋持株会社であるセブン&アイHDはグループ企業からの配当その他の収益を収入源とするしくみになっている、と考えることができるのです。

このように、連結財務諸表と親会社の個別財務諸表を読み比べる、という視点で分析してみると、グループ企業の違った姿が見られるかもしれません。

これを機会に、上場企業各社の連結決算書を読み比べてみてはいかがでしょうか。
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