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第160回 インボイス制度 免税事業者との取引について

第160回 インボイス制度 免税事業者との取引について

 アクタス税理士法人

令和5年10月1日からインボイス制度(適格請求書保存方式)が始まります。大きな変更点の一つとして、買手は免税事業者からの仕入について、仕入税額控除が受けられなくなるという内容があります。
そのため、免税事業者との取引については、取引価格の交渉を行うことなども考えられます。
今回は、独占禁止法や下請法の観点を交えて、価格交渉などを行う際に気を付けるべき点などについて解説します。

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■インボイス制度の概要

消費税の納税額は、売上に係る消費税から仕入に係る消費税を差し引いて(仕入税額控除)計算します。買手は、仕入税額控除のために、帳簿及び適格請求書(インボイス)の保存が必要になります。そのため、インボイス制度では、売手は、適格請求書発行事業者の登録を行ったうえで、インボイスの交付義務が発生します。

 

買手側類 売手側
仕入税額控除の適用を受けるために、原則として取引相手(売手)である適格請求書発行事業者から交付を受けたインボイスの保存等が必要となります。 適格請求書発行事業者は、買手である取引相手(課税事業者)から求められたときは、インボイスを交付し、その写しを保存しなければなりません。

インボイス制度開始後は、買手は、インボイスを発行できない免税事業者からの仕入について、経過措置(裏面Q3参照)経過後は仕入税額控除を行うことができなくなります。取引価格が変わらなければ、免税事業者からの仕入は仮払消費税が計上できない分、費用が増加することになります。

■「独占禁止法」及び「下請法」とインボイス制度との関係

●「独占禁止法」及び「下請法」とは

独占禁止法は、私的独占不当な取引制限不公正な取引方法などの行為を規制する法律です。一方、下請法は独占禁止法を補完する法律で、一定の商品やサービスについて、親事業者と下請事業者(裏面Q2参照)との間の取引を公正にし、下請事業者の利益を保護することを内容とする法律で、親事業者による受領拒否、不当な代金の減額、返品、支払い遅延、買いたたきなどの行為を規制しています。

●取引条件の交渉について

免税事業者との取引については、インボイス制度を機に、条件の見直しなどの対応が取られることも考えられます。事業者がどのような条件で取引をするかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられるものであり、インボイス制度を契機に免税事業者と取引条件を見直すことは、直ちに問題とはなりません。ただし、一方的な取引対価の引き下げとならないように、双方が納得したうえでの、適正な価格交渉が必要となります。例えば、免税事業者の消費税負担を考慮の上、双方納得して取引価格を設定し、結果的に取引価格が引き下げられた場合や、取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう強制することはできませんが、提案すること自体は独占禁止法上問題となるものではないと考えられております。

●取引条件の交渉について

次のような対応は、優越的地位の濫用として、独占禁止法下請法等により問題となるおそれがあります。

対応    内容
取引対価の引下げ 仕入税額控除ができないことを理由に取引価格の引下げを要請し、形式的な交渉しか行わず、著しく低い価額を設定する行為
商品等の受領拒否、返品 仕入先が免税事業者であることを理由に、商品や役務の成果物の受領を拒否し、または正当な理由がなく返品する行為
協賛金等の負担の要請等 取引価格を据置く代わりに、別途、協賛金や販売促進費等の名目での負担の要請や発注以外の無償による役務の提供を要請する行為
購入・利用強制 取引価格を据置く代わりに、当該取引以外の商品・役務の購入、利用を要請する行為
取引の停止 一方的に著しく低い取引価格を設定し、不当に不利益を与えることとなる場合であって、これに応じない相手方との取引を停止する行為
登録事業者となる慫慂(しょうよう)等 課税事業者にならなければ取引価格を引き下げるや、それに応じなければ取引を打ち切るなどと一方的に通告する行為

(財務省ほか『免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQA』より作成)

■Q&A

Q1.「優越的地位の濫用」とはどういうものでしょうか。

A 「優越的地位の濫用」とは、例えば、事業規模の小さい下請業者が売上の大部分を規模の大きい事業者からの発注に依存している場合など、取引上の力関係が優位な立場にあるものが、劣位にある取引の相手方に対し、その優位な地位を利用して、購入や利用を強制する行為や経済上の利益の提供を要請する行為、相手方に不利益となる取引条件の設定等の商慣習に照らし不当に不利益を与える行為を要求することをいいます。

Q2.下請法での「親事業者」「下請事業者とはそれぞれどのようなものでしょうか。

A 下請法では、対象となる取引を取引当事者の資本金等取引内容の両面から「親事業者」「下請事業者」を定義しています。例えば物品の製造委託取引では、委託者の資本金が3億円超・受託者の資本金が3億円以下(又は個人)の場合、又は委託者の資本金が1千万円超3億円以下・受託者の資本金が1千万円以下(又は個人)であれば、それぞれ「親事業者」「下請事業者」に該当します。

Q3.制度開始後、すぐに免税事業者等からの仕入は仕入税額控除が受けられなくなるのでしょうか。

A 免税事業者等からの仕入が、インボイス制度開始後すぐに仕入税額控除できなくなるわけではありません。経過措置により、次の表の仕入税額控除できる金額を仕入税額として控除できます。  
なお、経過措置の適用を受けるためには、区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等及びこの経過措置の規定の適用を受ける旨の記載をした帳簿を保存しなければなりません。

期間 仕入税額控除できる金額
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで 仕入税額控除相当額×80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで 仕入税額控除相当額×50%
令和11年10月1日以降 控除不可

Q4.免税事業者が課税事業者となりインボイス発行事業者になった場合と免税事業者のままでいる場合にそれぞれどのような影響が考えられますか。

インボイスは、インボイス発行事業者への登録申請を行った課税事業者のみ発行できます。免税事業者がインボイス発行事業者になるには、課税事業者を選択し、インボイス発行事業者への登録申請を行う必要があります。課税事業者となってインボイス発行事業者登録を行った場合と、免税事業者のままでいる場合の一般的なメリットとデメリットは以下のとおりです。

選択肢 メリット デメリット
インボイス発行事業者となる(課税事業者となる) ・販売先の仕入税額控除が可能となるため、取引が継続する可能性が高い ・消費税の申告及び納付が発生するため、納税事務の負担が増える
・消費税分を販売価格に転嫁できない場合は利益が減少する
インボイス発行事業者とならない(免税事業者のまま)   ・消費税の申告及び納付が不要
・インボイスの発行、保存が不要
・販売先の仕入税額控除ができないため、取引を見直される可能性が ある

 

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