日本の会計・人事を変える。”もっとやさしく””もっと便利に”企業のバックオフィスを最適化。

人的資本情報の集計・開示のポイント 第5回 「男性の育児休業取得率」の算出方法と改善の仕方

人的資本情報の集計・開示のポイント 第5回 「男性の育児休業取得率」の算出方法と改善の仕方

 深瀬勝範(ふかせ かつのり)

 従業員が1,000人を超える企業の事業主は、2023年4月から、男性の育児休業取得率等を年1回公表することが義務付けられています。(なお、数年後に、この対象企業は、従業員300人を超える企業にまで拡大されるものと見込まれています。)今回のコラムは、「男性の育児休業取得率」の算出方法及びその改善の仕方について説明します。

「男性の育児休業取得率」の算出方法

 男性の育児休業取得率は、次の式で算出します。

育児休業等※を取得した男性労働者の数 ÷ 配偶者が出産した男性労働者の数

※「育児休業・産後パパ育休」以外にも、「所定労働時間の短縮の代替措置として3歳未満の子を育てる労働者を対象とした育児休業に準じる休業」(育児・介護休業法第23条第2項)及び「小学校就学前の子を育てる労働者を対象とした育児休業に準じる休業」(法第24条第1項)も含まれます。

 育児休業を分割して2回取得した場合であっても、同一の子についてものであれば、労働者数は1人として数えます。また、事業年度をまたがって育児休業を取得した場合には育児休業を開始した日を含む事業年度の取得、分割して複数の事業年度において育児休業等を取得した場合は最初の育児休業等の取得のみを計算の対象とします。
 男性の場合、配偶者の出産後しばらくしてから育児休業を取得することがあります。例えば、3月末決算の企業において、前年12月に配偶者が出産した男性労働者が、今年4月以降に育児休業をはじめて取得するケースでは、「配偶者が出産した男性労働者の数」は前年度分に、「育児休業等を取得した男性労働者の数」は今年度分にカウントされます。この結果、分母(配偶者が出産した男性労働者の数)よりも分子(育児休業等を取得した男性労働者の数)のほうが多くなり、今年度の育児休業取得率が100%を超えることもあります。(【図表1】参照)

column-image_fukase05-3

「男性の育児休業取得率」の現状

 厚生労働省の「雇用均等基本調査(調査対象は、従業員5人以上を雇用している民営事業所)」によると、2020年10月1日から2021年9月30日までの1年間における男性の育児休業取得率は17.1%でした。従業員規模により大きな差があり、従業員500人以上が25.4%、100~499人が21.9%であるのに対して、30~99人は17.4%、5~29人は11.2%にとどまっています。
 5年度前の調査では、取得率は5.1%でしたから、ここ数年で急上昇してきたことが分かります。
column-image_fukase05-2-1
 なお、「令和5年度 男性の育児休業等取得率の公表状況調査」(速報値)によると、従業員数1,000人超の企業の男性育児休業取得率は46.2%、取得日数の平均は46.5日となっています。
 この調査では、男性育児休業取得率の改善に関する企業の取組内容についても調べていますが、「取得率が高い企業では、『自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供』や『育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施』等が行われる」という結果が出ています。

「男性の育児休業取得率」を改善するには

 男性の育児休業取得率を改善するために、企業はどのような取組みを行えば良いのでしょうか。

大企業では、育児休業に関する研修や勉強会を行い、育児休業の現状や取得率改善のために行うべきことを、従業員(とくに管理職層)にしっかりと理解してもらうことが必要です。
 育児休業取得率が高い企業は、「働きやすい職場環境である」という評判が広がり、採用面で他社よりも優位な立場になれます。また、社内のモチベーションが向上して、定着率が高まる、業績改善に結び付く等の効果も期待できます。このような育児休業取得率を高めるメリットを全従業員に理解していただき、育児休業が取得しやすい職場風土にしていくことがポイントです。

 中小企業の場合、「もともと必要最小限の人数でやりくりしているので、男性従業員の中から育児休業者が出ると、仕事が回らなくなってしまう」という現実的な問題があります。しかし、それを言い訳にしていては、いつまでたっても、男性の育児休業取得率は改善されません。ですから、会社全体で「どうすれば、男性も育児休業を取得できるようになるか」ということを話し合ってみると良いでしょう。
 「育児休業者が出た場合の職務分担を考えておく」、「育児休業者が出た部門には他部門から応援要員を出すルールを作る」等、育児休業取得率の改善に向けたアイデアが出てくるものと思いますので、それを実行していくようにしましょう。

 なお、企業規模を問わず、男性の育児休業取得率を改善するためには、まず、経営層や従業員に自社の男性育児休業取得率を把握してもらい、関心を持ってもらわなければなりません。ですから、人事部門は、男性の育児休業取得率やそれに関する情報(男女の育児休業取得者数など)を社内に向けて開示すること、従業員がそれらの情報をいつでもチェックできるようなシステム整備を行うこと等の取組みも必要です。

新規CTA

関連記事