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人的資本情報の集計・開示のポイント 第8回 「中途採用比率」の算出方法と公表におけるポイント

人的資本情報の集計・開示のポイント 第8回 「中途採用比率」の算出方法と公表におけるポイント

 深瀬勝範(ふかせ かつのり)

 

 従業員数301人以上の企業は、おおむね年に1回、「直近の3事業年度の中途採用比率」を自社ホームページに掲示する等の方法により公表することが義務付けられています。

 中途採用比率は、「1年間に採用された正規従業員のうち、中途採用者(新卒採用者以外の者)が占める割合」を指します。近年、転職活動中の労働者は、このデータをチェックし、「中途採用者でも働きやすい職場であるかどうか」を確認してから、その企業への入社を決める傾向があります。

 今回のコラムは、この中途採用比率の算出方法及びこれらを公表するときのポイントについて説明します。

「中途採用比率」とは

 2021年4月に施行された改正労働施策総合推進法により、従業員が301人以上の企業は、おおむね年に1回「直近の3事業年度の中途採用比率」を、求職者が容易に閲覧できるかたちで公表することが義務化されました。ここでいう中途採用比率は、次の式で算出されます。

 

中途採用比率 = その年度の中途採用者数 ÷ 正規雇用労働者×100(%)

 

 この比率が高い企業は、中途採用を活発に行っており、中途採用者が馴染みやすい職場になっているものと考えられます。国は、中途採用比率の公表を通じて、企業に対して中途採用者の積極的な活用を求め、また、労働者が不安を感じずに転職できる環境を整備しているのです。

 日本経済新聞の調査によると、大手企業の2023年度採用計画における中途採用比率は、過去最高の37.6%となっています。この7年間で約2倍の上昇を見せていますが、そこには、次の要因があるものと考えられます。

 

  1. デジタル技術を持つ専門人材等を確保するために、企業が中途採用を活発化させていること。
  2. 若年労働者の減少により、新卒採用では必要人材を確保できず、企業は中途採用に頼らざるを得ないこと。

 

 これらの要因が消えない限り、今後、多くの企業が、中途採用をさらに活発化させていくことになるでしょう。このことを踏まえると、日本企業は、人材を確保するためには、中途採用者が活躍できる職場であることを労働者にアピールすることが必要であり(法令により義務化されているか否かに関わらず)、中途採用比率を積極的に公表していかなければならない、ということになります。

 

中途採用比率は高いほうが良いのか?

 ところで、中途採用比率は、高いほう、低いほうのどちらが良いのでしょうか?

 中途採用比率は、「中途採用が活発に行われているか否か」を表すデータであり、転職先を探している労働者からすれば、「高いほうが良い」ということになります。しかし、中途採用比率が高くなる背景には、「退職者が多く、それを補充するために中途採用が常に行われている」ということも考えられ、長期にわたり安定的に働きたいという意向を持つ労働者は、「中途採用比率は低いほうが良い」と捉えることでしょう。

 経営者の立場では、事業拡大に伴い、経験者採用で即戦力となる人材の確保を図っている企業は、「中途採用比率を高くしたい」と考えます。一方、新卒採用で確保した人材を育成し、安定的に事業の成長を図ろうとする企業は、「中途採用比率を低く抑えたい」と考えるでしょう。

 このように中途採用比率は、高いほう、低いほうのどちらが良いのかは、労働者や企業の考え方次第で決まると言えます。(【図表1】参照)

 

【図表1】 中途採用比率は、高くても、低くても「良いもの」と捉えられる

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中途採用比率を公表するときのポイント

 企業は、中途採用比率を公表するときに、どのようなことを意識すれば良いのでしょうか?

 見る人によって捉え方が異なる中途採用比率は、数値の高低よりも、その数値になった背景のほうが重要な意味を持ちます。ですから、企業は、中途採用比率の公表に当たり、その数値になった背景を説明するようにしなければなりません。

 例えば、中途採用比率が世間水準(概ね40%)よりも高い場合は、その背景として次のような説明をすることが必要です。

  • 事業拡大に伴い、即戦力となる人材を確保するために、中途採用を積極的に行った。
  • DX推進のために、デジタル分野の専門人材を中途採用によって確保した。

 

 逆に、中途採用比率が世間水準よりも低い場合は、次のような背景を説明すると良いでしょう。

  • 新卒採用と社内教育による人材確保が順調に進んでいるため、中途採用の実績は少なかった。
  • 社員の退職が少ないことから、欠員を補充するための中途採用が行われなかった。

 

 このような背景の説明を行うと、労働者は、その会社の人材確保に対する考え方を理解することができますし、それによって、企業は、自社の考え方に合った人材を採用しやすくなります。

 中途採用比率を公表するときのポイントは、「その数字になった背景に関する説明も付記すること」にあります。人事関係者は、このポイントを押さえて、効果的に中途採用比率の公表を実施していただきたいと思います。

 

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