トレンド情報 2024.08.08 (UPDATE:2024.10.25)
中田 清穂(なかた せいほ)
損益計算書を大きく変える会計基準が、2024年4月9日に公表されました。
国際会計基準審議会(以下、IASB)から公表されたこの会計基準は、IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(以下、IFRS18号)です。
2027年1月1日に開始する事業年度から適用です。
日本でIFRSを任意適用している3月決算の会社は、2027年4月に始まる2028年3月期から強制適用です。
早期適用も認められています。
何が大きく変わったのか、さらにこれから何が変わるのか、そして日本への影響はあるのか、などについて解説します。
日本の会計制度での損益計算書は、以下の「段階利益」を表示しています。
これに対して、従来のIFRSでは、損益計算書の表示は、
といった、シンプルな段階利益しか規定されていませんでした。
IFRSを適用する多くの企業が「営業利益」も表示していましたが、「営業利益」に何を含めるのかについては、明確な規定がありませんでした。
したがって、同じ「営業利益」といっても、企業によって内容が違うことがあり、必ずしも「比較可能性」があるとは言えないという批判がありました。
そこでIASBはIFRS18号で「新しい損益計算書のカタチ」を示したのです。
「新しい損益計算書のカタチ」の最大の特徴は、損益計算書を、「営業区分」「投資区分」及び「財務区分」の3つの区分に分けたことです。
この営業区分には、企業の主たる事業活動から生じる収益及び費用を含み、投資及び財務区分に分類されない勘定科目が分類されます。
この投資区分には、企業が保有する他の資源からおおむね独立して営業損益とは別の収益を生み出す資産からの収益や費用と、持分法投資損益が分類されます。
① 受取配当金
② 現金及び現金同等物から生じる収益及び費用(受取利息など)
③ 持分法投資損益
この財務区分には、財務活動に関連する資産・負債から生じる収益及び費用が分類されます。
具体的には、支払利息や割引料等が含まれます。
そして、関連する段階利益として、以下の表示を求めています。
日本の会計制度の損益計算書で表示されている「営業外収益及び費用」を「投資区分」と「財務区分」に分けたような感じですね。
別の見方をすれば、IFRSの損益計算書が日本の損益計算書に近づきつつ、日本の損益計算書よりも進化したと言えるでしょう。
ところで読者の皆さん、損益計算書を「営業区分」「投資区分」及び「財務区分」に分類すると聞いて、「何か聞き覚えがあるな」と感じませんか?
そうです!キャッシュフロー計算書の3区分と同じなのです。
キャッシュフロー計算書と損益計算書が、同じように「営業区分」「投資区分」及び「財務区分」に分類されると、どのような効果があるでしょうか。
損益計算書では主たる「営業活動」でがもうかったかどうかは「営業利益」でわかります。
そして、実際に本業で現金収入になったのはいくらなのかが、キャッシュフロー計算書の「営業キャッシュフロー」を見ればわかるのです。
損益計算書で「投資活動」で得られた収益やかかった費用が把握できると同時に、それが実際に現金収入や支出になったのはいくらなのかが、キャッシュフロー計算書の「投資キャッシュフロー」を見ればわかるのです。
損益計算書で「財務活動」で得られた収益やかかった費用が把握できると同時に、実際に現金収入や支出になったのはいくらなのかが、キャッシュフロー計算書の「財務キャッシュフロー」を見ればわかるのです。
つまり、損益計算書とキャッシュフロー計算書は、同じ3つの区分で整理されて、関連性がとてもわかりやすくなったのです。
「損益計算書とキャッシュフロー計算書が同じ3つの区分で表現されるようになった」ということは・・・?
そこで、何か感じませんか?
考えたくないから、感じないようにしていませんか?
損益計算書とキャッシュフロー計算書の他にも「財務諸表」がありますね!
そうです。
貸借対照表です。
3区分で表現される動きに、貸借対照表だけが取り残されているのです。
IFRSでの貸借対照表は、資産・負債のいずれにおいても、「流動」「非流動」に分類して表示することが求められています。
このままで済むでしょうか。
これについての動きはまだわかりません。
しかし実は、ちょっと前にこの議論が行われていたのです。
貸借対照表でも、営業・投資・財務で区分して、3つの財務諸表を関連付けることが検討されていたのです。
当時の検討資料について、詳しくご覧になるにはこちら▼
以上は、IFRSを任意適用している企業が直面する課題です。
しかし、最近の日本の会計基準は、IFRSの影響を強く受けています。
収益認識基準やリース基準などは、新しい会計基準(リースはまだ公開草案)なので、記憶に新しいと思います。
日本の会計基準がIFRSに近づくのは、日本企業の財務諸表を国際的にも比較可能にしたいからです。
そうであれば、財務諸表そのものの変化は、当然に日本の会計基準にも影響を及ぼすと考えるのが普通だと思います。
今すぐではありませんが、今みなさんが立たされている状況は、そういった「ナガレ」の中にあるということは、常に念頭に置いておくべきでしょう。
今回の改訂で、損益計算書の表現が大きく変わったことで、財務会計システムから出力される損益計算書についても、対応が迫られます。
対応の方法には以下のようなものが考えられます。
IFRSを任意適用している皆さん会社の財務会計システムでは、上記のうち、どのような対応が必要なのかを早めに確認しておくことは、無駄ではないでしょう。
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。