日本の会計・人事を変える。”もっとやさしく””もっと便利に”企業のバックオフィスを最適化。

「日本的経営とこれからの本社のあり方」~これからの新しい「本社機能」について考える~

「日本的経営とこれからの本社のあり方」~これからの新しい「本社機能」について考える~

 柴山政行(しばやま まさゆき)

-本稿(第4回)の位置づけ-
1

経営の意義と4つの機能的な側面

 まずは原点に返って、そもそもの「経営」の意味を考えてみます。
 広辞苑によると、会社の「経営」について、つぎのように定義しています。


継続的・計画的に事業を遂行すること。特に、会社・商業など経済的活動を運営すること。また、そのための組織
(広辞苑)

 本稿の趣旨に合わせて上記の定義のうち重要と思われる点を整理してみました。
①    継続的・計画的に事業(=経済活動)を遂行(=運営)すること。
②    経済活動を運営するための組織

 また、①の意味内容をもう一歩掘り下げると、何をするにも「カネ」がかかります。そして、会社における「事業」とは、市場(顧客)が求める「モノ」(商品)を供給することにほかなりません。
 ②は簡単にいえば、「カネ」を使って「モノ」を売るための「ヒト」を一か所に集めてとりまとめ、活発に動かすことといえるでしょう。

 以上を整理すると、一つの考え方として、「経営」とは次のようなものになります。

 1.事業遂行に必要な「カネ」を集め、適切に配分し、    
 2.事業方針に沿って「ヒト」を集め、適切に動かし、    
 3.必要とされている「モノ」を用意し適時・円滑に提供し、 

 市場の顧客が「より豊か」な生活を享受できるためのフローを作り、運営する。

 1.「カネ(資金)」の調達と運用      ・・・「財務」機能
 2.「ヒト(人材)」の採用と管理      ・・・「組織」機能
 3.「モノ(商品)」の仕入と販売      ・・・「営業」機能(※製造含む)
   プラス
 4.「カネ」「ヒト」「モノ」のサポート    ・・・「支援」機能

 

2

 図を見ると、カネをいかに集めて運用し、ヒトをいかに集めて動かすかが、モノを売る営業活動の根底をささえる重要な前提条件であることがわかります。
 従来の本社機能は、次の項目で述べる戦後からバブル時代までの経営環境を背景にして、伝統的に4.「カネ」「ヒト」「モノ」のサポートすなわち「支援」機能が非常に大きなウェイトを占めていたように思われます。

日本企業における「戦後~バブル時代」の企業経営を取り巻く変化

 この点、戦後から昭和ないし平成初期にかけて(1945年~1990年代)の日本は、人口がほぼ一直線に右肩上がりで、いったんゼロ近くにまで落ちた経済活動が高度成長の勢いにまかせて500兆円規模までアップしつづけた特殊な状況下にありました。

 次のグラフは名目(物価変動を考慮しない)ベースのGDP(国内総生産)の長期推移ですが、1955年の約9兆円が40年後の1995年には504兆円になり、この間なんと50倍以上の経済規模拡大を実現しています。


(「年度統計 国民経済計算(1/5)」内閣府 をもとに著者作成 https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je12/h10_data01.html  (参照2023-04-07) )

 なお、ここで一点、ご留意いただきたい点があります。

 戦後の成長期にあってもなお激しい市場競争はありましたし、二度のオイルショックや1985年のプラザ合意後の急激な円高など、当時は当時なりの経営課題があったため、もちろん今よりも経営が楽だったということを言いたいわけではないことをご理解ください。

 ここで論じたいのは、「ヒトの問題」「カネの問題」が今とは状況が違うため、現在のように本来の会社制度において、あるべき経営課題としてカネとヒトの問題に取り組む機会が持てなかったことによる弊害があった、ということです。

 戦後日本の混乱状態と投資家不在に近い資本環境下での銀行行政、あわせて戦後復興へのプレッシャーと人口が爆発的に増加していた環境下での人事政策の特異性などから、本来の株式会社制度において取り組むべきであった財務・人材というテーマへの向き合いができなかったことをいっしょに検討していくのが本稿の目的です。
 
 現代における本社機能やガバナンスに関する問題意識として、ヒトとカネの問題を長らく日本経営の現場で積み残してきた部分があるため、その宿題を今、日本の経営者はあらためて直面せざるを得ない時代になったということだと思います。

 話を戻します。

さきほどの名目GDPの長期推移に加え、人口推移に関する次のデータを見ると、7214万7000人から1億2361万1000人と、1945年から1990年までの45年間において5000万人以上もの人口増加を記録しています。


【1945年~2000年における5年ごとの日本の人口推移】

4
(「第I部 人口の減少、少子高齢化の進展など人口構造の変化に対応した国土交通行政の展開」国土交通省ホームページ のエクセルデータを基に著者作成) 
 https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h14/H14/html/E1011101.html (参照2023-04-07))

日本的経営につながる金融と労務の歴史的事情
~護送船団方式と三種の神器~

 戦後(1945年以降)から1990年代にかけての日本は、「人口の増加と日本全体の経済成長」が会社にとっての強力な「昇りのエスカレーター」となっていたのです。

 その時々の市場環境を与件(前提条件)として、経営者が知恵を絞って「儲かる経営システム」を構築できるかどうか、いいかえれば現場にとって「昇りのエスカレーター」となる仕組みを考えることが「経営能力」の本質と見るならば、バブル期までの日本は、今と比べて、人口増加の傾向や社会経済的な背景から見て、昇りのエスカレーターとしての条件がそろいやすかったと考えることができるのではないでしょうか。

 なお、日本の人口は2005年をピークに減少を続けています。

 あらためて戦後からバブル崩壊に至る1990年までの人口5000万人増加が意味するところを考えてみましょう。
 ひとことでいうならば、今と比べて「人材が安く大量に手に入る時代」だったといえます。

 わたしはバブル期に新卒として就職活動をした世代ですが、このころ、大手企業ではどこも毎年300人からの新卒を大量採用し、いったん採用したら終身雇用・年功序列による賃金の継続的アップが期待できました。これらと企業別労働組合の3つを取り上げ、労務管理の分野では日本的経営の特徴として「三種の神器」と呼ばれていました。

 多くの社員は新卒で会社に入り、定年までをつつがなく勤め上げる、国の住宅システムもこのような終身雇用・年功序列型賃金制度という個人収入の安定化装置を担保に住宅ローン融資などを積極的に行ってきました。
 いっぽうで、こういった社会システムへの若者の継続的・安定的な育成と提供を趣旨とする義務教育・高等教育のカリキュラムがガッチリと構築されていたのです。

 その結果、「決められたルールをみんなで守る」という価値観の統一に親しみなれた社会人が毎年100万人~200万人規模で学校から送り出されてきました。もちろん私もその中の一人ですが。

 これはある意味、今の時代から見ると「世の中の価値観がある程度決まっていて、将来の方向性がわかりやすかったかつての安定成長時代の経営者」側としては都合の良いことで、組織の輪を乱すならば独創性は不要、トップの指示(上司の性格等によって通常まちまち)を疑うことなく守り、それを粛々と遂行することで定年までの生活を保障しますよ、という労使お互いの暗黙の合意が国を挙げて築き上げられていた空気があったように感じます。

 1950年代~1990年代までは、雇用および人材の活用(=「ヒト」の対策)について、各企業はこの安定化装置に乗ることで、人事・労務に関して本来生じるはずの複雑多様な経営課題に直面せずに済んでいた側面があるといえます。

 だから、今問題になっている働き方改革などの本来的な経営課題について、社長はある意味、無関心に近い状態でいられました。

 加えて、戦後の高度経済成長期から、平成前半のいわゆる「金融ビッグバン」と呼ばれる2000年頃の金融システム変革期までは、戦後の混乱期といった国の事情も相まって、「株主による直接資本の調達」といった経営側に高度な財務的対応を要求する「カネの問題の解決法」は当面発達せず、銀行に大きく依存する「間接金融型」の資金調達システムが主流となっていた側面があると筆者は考えています。

iStock-1272362330
 「護送船団方式」という言葉、もしかしたら今の若い人たちにはなじみがないかもしれません。

 昭和の後半を中心とした成長期の日本にあって、日本企業の資本調達の主役を担ってきた銀行の国家的な運営システムをある意味総括的に表現した言葉です。


《護送船団は最も速度の遅い船舶に合わせて航行するところから》特定の産業において最も体力のない企業が落伍しないよう、監督官庁がその産業全体を管理・指導しながら収益・競争力を確保すること。特に、第二次大戦後、金融秩序の安定を図るために行われた金融行政を指していう。」(出典「goo辞書 『デジタル大辞林』小学館」 https://dictionary.goo.ne.jp/

 以上を踏まえると、戦後からバブル崩壊までの約半世紀にわたり、資金と人材の課題について、多くの日本企業は「いわゆる護送船団方式をはじめとした、当時の金融安定化など社会的要請に応じて設計された制度に基づき、銀行借入に大きく依存した資金調達方法」と「三種の神器や人口増加に基づく豊富な人材に恵まれた労務環境」を背景に、経営労力のほとんどをモノ売りすなわち営業の推進活動に注力すればよかったのですね。

 今の経営環境と比べても、「財務対策」はほぼ銀行との関係づくりでOK、「人事対策」はいまほど就業年齢人口がひっ迫しておらず、価値観もいまのように複雑・多様化していないため、言葉は悪いですが「上司からの命令・洗脳的な指導」が今よりもかなり容易に行えました。
 私が大学時代の1980年代は、まだパワハラという言葉すらなかったと記憶しています。調べてみると、2001年頃から和製英語の一つとしてパワハラという言葉が使われるようになったようですね。

 このような状況下において、本社の機能は図の三角形の中心にあるように、営業を中心とした会社の各機能に対するサポート・支援が中心だったといえるでしょう。

 なぜなら、本来なら重要な経営機能であるはずの「カネの問題(財務)とヒトの問題(組織)」に関しては、銀行との関係づくりと終身雇用・年功序列などの安定的日本システムの上にあったのですから、その時代においては、投資家との関係づくりや多様な人材を有効活用するシステム構築などについて、踏み込んだかじ取りをしなくても会社は回っていたからです。

 また、企業のパフォーマンスの良し悪しを図るものさしとして、従来型の経営における主な関心は損益計算書を中心とした「売上」であり、そこから諸費用を控除した「利益」の額に集まります。

 日本の市場がマクロ的に見て基本右肩上がりならば、成長市場に乗りやすい環境で、資金ショートのリスクは市場の見込み違いや銀行との関係悪化・手形の資金繰りのミス以外には、今ほど高くないと考えられます。
5
 このような状況下では、本社が担う機能の中心は、現場の事業を推進する製造・営業といった活動のサポート・支援という裏方の役割に偏らざるを得ないですね。
 企業価値の向上に貢献する、という意味では非常にその成果がわかりにくい機能に限られてしまっています。

 まとめますと、金融ビッグバン(1996年)やバブル崩壊(1990年代)を境に、日本企業の経営環境は「カネ」「ヒト」のマネジメントについて、本来やるべきだった本質的な機能を真剣に検討しなければならない時代になってきた、ということが言えます。

これからの本社に求められる「経営」機能

iStock-1346944001
 ここまで見てきたバブル期までの日本における経営環境の特徴から、

①    銀行借入中心の資金調達と客観的なルールのない各事業への感覚的資金投下
②    終身雇用・年功序列賃金などの安定雇用と従業員の生活保障を想定した雇用体制
③    カネ・ヒトの専門的な管理ではなく、企業内における各部署への支援サービス(税務会計・総務・法務・ITなど)が
       本社部門の中心的な仕事となっていた伝統的な現状

がこれからの厳しい令和時代では通用しなくなってくる、ということが肌感覚でイメージできつつあると思います。

 そこで、本稿の最後では、次に議論をつなげる意味で、これからの「本社」機能について少し考えてみましょう。

 具体的には、まずは財務の面において、銀行中心・借入重視の資金調達からリスクマネジメントを重視する投資家からの資金調達を考える必要が生じ、そこから投資リターンを精密に考える資金運用・投資戦略を経営課題としなければならないことです。

 そして、つぎに組織の面において、多様な立場・価値観の人材を一つの長期的な方針のもとにまとめ上げ、結束したチームとしてシナジーを生むような人材管理を実現していく必要があります。

6

 上の図を見てもわかる通り、これからの本社機能に期待される役割は、総務的な仕事だけではなく、事業への投資判断をしたり、シナジーを発揮できるよう部門間の連携を企画・推進したり、銀行に限らない投資家向けの資金調達を踏まえた財務戦略を練ったり、組織運営も人材の意欲を高めつつ生産性向上のための多様な施策を実施する仕事だと思われます。

 今回のお話は、未来のことというより、まずは「過去の日本的な本社部門」がなぜ根付いてきたかの考察にウェイトを置いたものになりました。

 しかし、これまで日本企業が置かれてきた戦後半世紀の状況がわかることによって、これから取り組むべき本社のあるべき姿がより鮮明になると思います。

 次回からは、以上の議論を踏まえ、あらためてこれからの本社が「カネの問題」と「ヒトの問題」について、企業価値を高めるためにどのような組織構成をとり、どのような考えで業務のフローを考えていくべきかについて一緒に検討していきましょう。


<参考文献・参考資料>
「グループ経営入門 第4版」松田千恵子著 (税務経理協会)
「年度統計 国民経済計算(1/5)」内閣府 
  https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je12/h10_data01.html  
「第I部 人口の減少、少子高齢化の進展など人口構造の変化に対応した国土交通行政の展開」国土交通省
  https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h14/H14/html/E1011101.html  
「日本的経営『三種の神器』」 日本経済新聞社(会員限定記事)
  https://www.nikkei.com/article/DGKKZO37575540Z01C18A1TM1000/

製品のご質問・機能紹介はこちら

関連記事